手広デンタルクリニックの院長 島村 泰行が、『鎌倉衛生時報』に執筆している記事をご案内します。
「先生、ふつうの歯ブラシと電動歯ブラシと、どちらがいいのですか?」と患者さんによく聞かれます。数年前だったら間違いなく、手で磨いたらどうですか、と答えていたでしょう。しかしここ数年、電動歯ブラシがさらに改良され、音波ブラシという製品が市場に出回っています。
この話をする前に、まず歯周病の話を致しましょう。歯周病は多くの要因が絡み合って発症しますが、歯ブラシに代表されるブラッシングで予防することが可能です。歯周病はバイオフィルム感染症と言われています。歯の表面に付着した歯周病原因菌やその他の物質の塊・巣なのです。それを器械的に除去することが大切です。
目で見えるところに付着する歯石よりも、歯と歯ぐきの隙間に隠れて見えない歯周ポケットの中の歯石(歯肉縁下歯石)が歯周病を悪化させるのです。
またタバコも歯周病を悪化させる最大のリスクファクター(危険因子)と言われています。タバコを吸う人は、歯周病を引き起こしやすく、悪化するスピードが速いため、治療してもなかなか改善されません。
日本では、むし歯も歯周病も歯の表面に付着した細菌が引き起こす感染症、という認識が薄いようです。歯を磨いて汚れを落とし、細菌を除去することが一番の予防法です。ですから、基本的にはふつうの歯ブラシで磨いても良いわけです。
ただ、歯磨きには、かなりのテクニックと時間を必要とします。テクニックが必要ということは、お子さんやお年を召した方等、細かい手の動きができない方は、歯に付着した細菌を除去することが困難なため、口の中が不潔になりやすく、むし歯や歯周病が進行すると想像されます。
お勧め音波ブラシ ソニッケアー
音波ブラシは、高速振動するため、短時間で効率良くはの表面の細菌を除去します。歯と歯ぐきの間の隙間や、ブラシの毛先が届きにくい部分に付着したバイオフィルムを効果的に除去するのです。タバコのヤニやコーヒー等、歯に付着した色素を除去したりするので、美白効果もあります。
矯正治療のために歯の表面にブラケットという装置を付けますが、この装置とワイヤーが邪魔になって歯磨きがしづらい場合、使い方によって音波ブラシは有効といえます。またインプラント(人工歯根)を骨の中に埋め込んだ場合も、これを良い状態で維持するためには歯周病予防が肝心ですから、インプラントの上の磨きにくい部分などにも、音波ブラシの効果は期待できます。
音波ブラシのヘッド部分が各メーカーとも小さくなってきたため、これまで届きにくかった部分にも到達できるようになりました。またコンパクト化も進み、旅行先でも気軽に持ち運びできるようになりました。ヘッドの部分は消耗品ですが、かなり安価なものも流通していますので、ご家庭でも色分けして、各自使用することが可能です。
まずはふつうの歯ブラシでうまく磨けることが大切ですが、手の不自由な方やうまく磨けない方は試してみるのも良いでしょう。ただし、磨き残しがあれば、この器械も無用の長物になってしまいますので、かかりつけの歯科医院を受診され、適切な指導の下で購入されてはいかがでしょうか。
もちろん禁煙や、ふつうの歯ブラシでしっかり磨くことも忘れないで下さい。
「また禁煙の話か・・・」と耳が痛い愛煙家の方は多いはず。そういう私も、十年以上前はスパスパと愛煙しておりました。今は一本も吸っておりませんので、私は禁煙成功者かもしれません。
しかしタバコというものは不思議なもので、ストレスがたまったり、お酒の席になると、無性に吸いたくなる衝動にかられます。きっと体がニコチンを覚えているんですね。
昨年、受動喫煙(タバコを吸っている本人ではなく、その煙を二次的に吸うこと)の防止を盛り込んだ「健康増進法」が施行されました。法律になったからといって、喫煙者を追いやることは良くありませんが、喫煙者には是非知っていただきたいことがあります。
タバコの煙に含まれる多くの有害物質は、タバコを吸わない周りの人や家族の健康に被害を及ぼすということです。その有害物質は恐ろしいことに、単なる空気清浄機ではガス状物質を除去できないという報告もあります。
WHO(世界保健機構)では、TFI(タバコフィリーイニシアチブ)として最優先課題で取り組んでいます。「タバコは病気の中で、予防可能な最大・単一の原因である」とされています。言い換えれば病気と名の付くものは、いろいろな要因が絡み合って発症しますが、とりあえずタバコをやめればリスクファクター(危険因子)がなくなり、やめた分だけ健康になるということです。
タバコの健康被害に関しては、広く知られるようになったので、タバコと口の健康について話を進めていきたいと思います。
まず喫煙すると歯にヤニが付着したり、口臭の原因にもなります。さらに口の中はタバコの影響が出る最初の器官でもあり、口腔・咽頭がんの発生率が非喫煙者と比べて約3倍にもなるといわれています。また、特に歯周病の最大リスクファクターが喫煙で、治療を行っても進行しやすく治りが遅くなります。
煙の中のニコチンは次のような作用を起こします。
歯周病は多くの要因が絡み合って発症しますが、逆にいえば、予防することもできるのです。まずそのひとつは、歯ブラシに代表されるブラッシングです。プラークコントロールという言葉がありますが、歯周病はバイオフィルム感染症といわれています。
バイオフィルムとは、歯の表面に付着した歯周病原因菌やその他の物質の塊・巣です。それを機械的に除去することが大事なので、3ヶ月ないし半年に一度(個人の病態により異なります)、かかりつけの歯科医を受診されることをお勧めします。
しかし、むし歯や歯周病を予防するためにしっかりブラッシングしていても、タバコを吸い続ければリスクファクターはなくならいので、歯周病は進行します。またタバコは生活習慣病にとっても共通のリスクファクターなので、全身の健康を維持増進するためには、禁煙が最大の手段となります。特に未成年の禁煙指導は有効といえます。
今、保健所では、ニコチンパッチによる禁煙をバックアップしていますので、相談してみてはいかがでしょうか。
最後にWHOによる世界禁煙デー(5月31日)の01年のスローガンを紹介させていただきます。
Second-hand smoke kills, let's clear the air.
(他人の煙が命を削る。受動喫煙をなくそう!)
今年の春、長男が卒園した時の話です。式も終わって謝恩会となり、お待ちかねの昼食になりました。カニやデザート入りの子供達が喜びそうなお弁当でしたが、ふたを開けても歓声を上げるでもなく、黙々と口を動かすばかりで、よく噛んで食べている子は皆無でした。
TVで見た話になりますが、行革を実行した土光敏夫さんは、質素倹約をモットーにした方です。朝食は焼き魚を中心としたご飯とみそ汁で、たくあんや魚の頭をバリバリと音を立てながら食べている姿が印象的でした。土光さんのアゴは固い物を食べているため角張っていました。今の子供たちの大好きなカレーやハンバーグ等を中心とした食生活では、しっかりと噛むことができるでしょうか?それは子供の生活習慣にも関係しているようです。
「腰」が大事なのは誰でもよく知っています。戦国時代の武士達は刀を腰につけていました。馬に乗る時も、弓を引く時も腰がしっかりと入っていなければなりません。ある構造医学の先生は、骨盤は重力の補正装置であり、下アゴは振り子のようにそのポジションを補正していると言っています。確かに腰は骨盤、姿勢の状態は、噛み合わせに関係しているように思えます。
私は子供達に、先ず「良い顔(アゴ)を育成する」事が大事だと話します。アゴは本来前方に発育させなければなりません。
ヒトは進化の過程でサルから類人猿と呼ばれる我々の先祖まで、長い時間をかけて、少しずつ二足歩行するようになりました。それに伴い脳が発達し、脳重量も大きくなり、その結果アゴは下方に育つようになりました。しかし骨格の問題だけでなく、その骨を支持し、スムーズに動かしているのは筋肉です。噛んで下アゴを成長させることも大事ですが、筋肉が充分に育成されなければなりません。特に口の周りの筋肉で重要なのは咬筋です。字の如く咬むための筋肉です。
今現在小顔ブームで、顔(アゴ)が小さい方が美しいとされる傾向にありますが、美人の代名詞のようなオードリー・ペップバーンの横顔をみるとアゴがしっかりとしているのがわかります。
口を開いていると口の周囲の筋肉(口輪筋)が弱くなります。「うちの子は鼻が悪いのでいつも口を開いています」というお母さんが多くいらっしゃいますが、常に口を閉じる事を意識し、食事は口輪筋や表情筋を伴った前歯で噛んで食べる事が大事です。日常生活が治療ですから、唇をいつも閉じている自覚が必要です。我々人類は開咬(口がたえず開いている噛み合わせ)になりやすい。しかし直立していても必ず開咬になるわけではない。絶えず口を閉じさせる神経筋機構が働いているからです。
動物の中で口で息をするのは人間だけで、子供にとって口で呼吸することはとても楽ですが、口呼吸になると、扁桃腺等の免疫系がおかされ、アトピーにもなりやすいと指摘されています。
鼻呼吸をすると、鼻毛という立派なフィルターでバイ菌を吸着し、暖かい空気を肺に送ることが出来ますが、口呼吸は湿った空気が肺に運ばれるため全身状態にも良くありません。
今TVを見たりゲームをしている子供達が、ポカンと口を開いていたら「口を閉めなさい」と早速注意してみたら如何でしょうか。